社会科学研究会

一人の人間を救えない社会科学なんていらないー日本のこと、世界のこと、人間のことを真剣に考え発信します。

心の平和ー新しい安全保障

安全保障の概念は、これまで国内と国外という条件(主権国家)の確立と共に国内の人間、生命、財産等を国外から守るという前提から考察されてきました。それは、17世紀以来の主権国家体制の成立という歴史的な事情を考えれば、当然のことだと言えるでしょう。国家は国内の人民の生命や財産は守るが、国外のことは保証することが出来ない。そのような前提が17世紀以来、徐々に成り立ってきたのです。今日でも、その前提はある程度成り立っていると言えるでしょう。現在も、多くの国家が主権国家体制という前提を念頭に置きながら行動しています。しかし、国家を超えて経済的な取引や貿易が行われ、その結果として国内に大きな経済的格差が生まれている現在、主権国家体制という考えだけでは、必ずしも守ることの出来ない事柄が存在します。それは、心の平和という新たな安全保障です。私は、近代主権国家体制が特別劣ったシステムであるとは思いませんし、確かに主権国家体制を築くことで守られる国内の利益というものもあるはずです。しかし、近代以来の主権国家概念そしてその概念に基づく安全保障の整備を進めてきた結果、失ったものがあると私は考えます。それが、心の平和という概念です。自分の外に対する欲求や支配欲というものは止まることを知りません。しかし、自分の内から湧き出てくる安心や平和といったものはそれだけで充足するのです。自分の内側に平和や安心の心を持つことは容易い事ではありませんが、心の平和はそれだけ持続的かつ安定して保つことが出来るものでもあります。他人を支配したい、他国を支配したいと考えると、際限なく自分の欲望が膨らんでいくのが分かります。その欲望は止まることがないので、結局自分を苦しめるだけです。しかし、心の平和というものは自分の内側で充足している為、自分の外側に何かを求める必要はありません。このような心の平和を一人一人に根付かせることは、現代の人間の責務であると私は思います。一人一人の人間が心の平和を保ち、互いに争い合うことのないような社会を作らなければ、人類の希望は無いとすら私は思います。現在も世界全体の人口は増え続けており、一人一人の人間がこのまま自分勝手な行動をとり続ければ必ず人間は様々な危機に陥ることは目に見えています。そのような事態に陥る前に、手を打たなければなりません。そして、究極的には人間の安全保障の目標は人間以外のものへと向かっていかなければならないと私は思います。人間は、人間以外の沢山の存在によって生かされているのですから。

 

傷ついた日本人へ (新潮新書)

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